BSA・ACCS関連の裁判例紹介(ヘルプデスク事件・コンピュータスクール事件)

ソフトウェアの不正利用に関する代表的な裁判例である大阪地裁平成15年10月23日判決(ヘルプデスク事件・コンピュータスクール事件)をご紹介します。

ACCSによると上記判決は組織内におけるソフトウェアの不正コピーで役員の個人責任を認めた初の判決であり、BSAが公表している資料においても訴訟による損害賠償が認められた事例としてたびたび言及されています(BSAやACCSについては「ソフトウェア不正利用の損害賠償対応業務」というページでご説明していますのでご参照ください)。

なお、上記判決の全文は、裁判所のウェブサイトに掲載されています。

1.当事者

  • 原告(ソフトウェアメーカー)
    アドビ・システムズ・インコーポレーテッド
    マイクロソフト・コーポレーション
    クォークインク
  • 被告(不正利用者)
    コンピュータスクール経営会社とその代表取締役

2.事案の概要

被告がパソコン教室等に設置された多数のコンピュータ内に原告らのソフトウェアを違法にインストールした上で、そのソフトウェアを使用してコンピュータプログラムの講習などを行っていた事案です。

原告らはBSA・ACCSの通報窓口を通じて違法インストールが行われているという情報を得て、訴訟提起前に証拠保全の申立てを行いました。そして、被告会社の事務所(パソコン教室を含む)内で実施された証拠保全手続きの結果、事務所内のコンピュータにおいて多数のソフトウェアの違法インストールが行われている事実が確認されました。なお、被告らは、この証拠保全手続きの際に、ファイルを削除などの証拠隠滅行為を行っていました。

その後、原告側と被告側との間で和解交渉が行われましたが、賠償額について折り合いがつかなかったことから、原告らは、会社と代表取締役に対して、損害賠償を請求する訴訟を大阪地裁に提起しました。

また、被告会社は、証拠保全手続後、違法にインストールされたソフトウェアと同一の正規品を購入しました。

3.当事者の主張

この訴訟では(1)違法インストールの数量、(2)原告らの損害額、(3)被告代表取締役の責任の有無が主要な争点となり、損害額及び代表取締役の責任の争点に関して、原告らと被告らは、それぞれ以下のような主張をしました。

原告らの損害額

(1)原告側の主張

  • 原告らの「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法第114条第2項)について、①プログラムの違法複製による被害の甚大性、②被告会社の行為の高度の違法性、③正規品の事前購入者との均衡、④社会的ルールの要請を考慮すると、正規品標準小売価格の2倍相当額を下らない。
  • 著作権法第114条第1項や第2項の損害賠償とは別に、民法第709条に基づき無形損害その他の損害として、逸失利益と同額の損害賠償が認められるべきである。

(2)被告側の主張

  • 小売店に帰属すべき小売予定利益まで原告らが受けるべき金銭に含まれる根拠はないため、損害額の算定には標準小売価格ではなく卸売価格を採用すべきである。
  • 被告会社は事後的にソフトウェアの正規品を購入しており、それにより損害は填補された。

被告代表取締役の責任の有無

(1)原告側の主張

  • 被告代表取締役は、被告会社設置のコンピュータへのソフトウェアの違法複製を自ら行ったか又は被告会社の従業員をしてこれを故意に行わせた。
  • 仮にそうでないとしても、被告会社の業務上ソフトウェアの違法複製を行わざるを得ない状況があったのであるから、被告代表取締役に未必の故意又は重過失があったことは明らかである。

(2)被告側の主張

  • ソフトウェアの不正コピーはスクールの講師が行ったものであり、被告代表取締役は必要なソフトウェアの管理を講師に任せていて責任はない。

4.裁判所の判断

大阪地裁は、以下のとおり判断した上で、被告会社と被告代表取締役に対して、①正規品標準小売価格相当額(総額約3500万円)、②弁護士費用(総額約350万円)、③遅延損害金の支払いを命じました。

原告らの損害額

(1)原告側の主張について

  • 侵害行為の対象となった著作物の性質、内容、価値、取引の実情、侵害行為の性質、内容、侵害行為によって侵害者が得た利益、当事者の関係その他の訴訟当事者間の具体的な事情を勘案すると、本件において、原告らが請求できる「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」は正規品標準小売価格と同額と認めるのが相当である。
  • 原告らは「被告らの違法行為と相当因果関係ある無形損害その他の損害」を何ら具体的に主張立証していないから、原告らの主張を採用することはできない。

(2)被告側の主張について

  • 違法行為を行った被告らとの関係で適法な取引関係を前提とした場合の価格を基準としなければならない根拠を見出すことができないため、損害額の算定には卸売価格を採用すべきであるという被告らの主張を採用することはできない。
  • 被告会社が支払った金銭は、正規品購入の対価であって、損害賠償債務の履行をしたものではないから、弁済の要件を充たさず、被告らの正規品の購入により損害が填補されたという主張を採用することはできない。

被告代表取締役の責任の有無

  • 被告代表取締役は、自らソフトウェアの違法複製を行ったか又は被告会社の従業員がこれを行うのを漫然と放置していたのであるから、被告代表取締役に少なくとも重過失があったことは明らかである。
  • ソフトウェアの違法複製の防止に関する管理体制が不備であることは証拠保全手続後の管理体制の強化の点に照らしても明らかであるから、被告代表取締役の故意または重過失を否定する主張は採用することはできない。

5.まとめ

BSA・ACCSに対する通報を端緒として証拠保全、訴訟提起が行われ、正規品標準小売価格相当額に基づき損害額が認定された実例として参考になる事案です。

私は、これまでソフトウェア不正利用の損害賠償対応に関する案件に多く携わった経験があり、BSA・ACCSへの対応に関するご相談をお受けしたり、代理人としてBSA・ACCSとの交渉を行うことが可能です。ご相談をご希望される場合は、問い合わせフォームにてお気軽にお問い合わせください。

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