ソフトウェアの不正利用に関する裁判例紹介(ダッソー システムズ/アペックス事件)

ソフトウェアの不正利用に関する裁判例である東京地裁平成19年3月16日判決(ダッソー システムズ/アペックス事件)をご紹介します。

なお、上記判決の全文は、裁判所のウェブサイトに掲載されています。

1.当事者

  • 原告(ソフトウェアメーカー)
    ダッソー システムズ
  • 被告(不正利用者)
    デザインモデル等の製作会社

2.事案の概要

被告の従業員がダッソーシステムズのソフトウェアである「CATIA」を違法なクラックソフトを用いて改変し、すべてのモジュール(許諾を受けていないモジュールを含む)を使用できる状態にした事案です。

証拠保全手続きにおいて上記改変行為が行われている事実が確認されたことから、原告は、改変されたプログラム等の使用差止め及び廃棄並びに不法行為に基づく損害賠償を請求する訴訟を東京地裁に提起しました。

3.当事者の主張

この訴訟では(1)翻案権侵害の有無、(2)過失相殺類似の抗弁の成否、(3)原告の損害額が主要な争点となり、(2)及び(3)の争点に関して、原告と被告は、それぞれ以下のような主張をしました。

過失相殺類似の抗弁の成否

(1)被告の主張

  • ひとたび改変が行われた場合に損害額は巨額なものとなるソフトウェアについては、原告においても容易に改変できないシステムにする等の防止策を採ることも十分可能であったものであり、民法第722条第2項の過失相殺を類推し、算出された損害額のうちの3割のみを被告の負担する損害額とすべきである。

原告の損害額

(1)原告の主張

  • 被告は、本件改変行為又はその後の本件読み出し行為によって、本件ソフトウェアに含まれる使用許諾を受けていないモジュールが使用可能な状態を得たものであり、使用可能となった本件ソフトウェアのすべてのモジュールのライセンス料相当額につき利益を受けた。
    したがって、著作権法114条2項に基づき、原告は、当該ライセンス料相当額の損害を受けたものと推定される。

(2)被告の主張

  • 著作権法114条3項による損害額は、本件改変行為によって使用可能となり、かつ、現実に使用したモジュールのみについて算定すべきである。
  • 被告がエンドユーザとして支払うべき金額(小売り価格)ではなく、原告が受けるべき金額(卸売価格)で損害額は算定されるべきである。

4.裁判所の判断

東京地裁は、以下のとおり判断した上で、被告に対して、改変されたプログラム等の使用差止め及び廃棄を命じるとともに、①使用可能となった本件ソフトウェア全体の使用許諾料相当額から本件使用許諾契約に基づく支払額を控除した金額(総額約15億1400万円)、②弁護士費用(総額7500万円)、③遅延損害金の支払いを命じました。

過失相殺類似の抗弁の成否

  • 被告従業員による本件改変行為が故意によるものであるところ、容易に改変できないシステムにしなかったこと等の事情をもって、犯罪の挑発行為と同視することはできないから、被告の過失相殺類似の抗弁は理由がない。

原告の損害額

(1)原告の主張について

  • 被告は、本件改変行為により、本件使用許諾契約で使用許諾された範囲を超えて、11台の各コンピュータで、すべてのモジュールを使用でき、かつ、本件ソフトウェアを同時に使用できるようにしたものであるから、著作権法114条3項の適用による損害額は、11台につき使用可能となった本件ソフトウェア全体の使用許諾料相当額を算定し、それから本件使用許諾契約に基づく支払額を控除して算定すべきである。

(2)被告の主張

  • 著作権法は、その後の使用の有無を問わず、複製権侵害行為や翻案権侵害が行われた時点で著作権侵害行為が成立するとの立場を採っている。さらに、実際のソフトウェアのライセンス契約も、その後の使用の有無を問わず、ソフトウェアの入った媒体の売買契約やオンラインでのダウンロードの行われた時点で代金額が確定するものであり、使用の都度、時間等に応じて課金されるものはごく少数であると認められる。よって、被告の本件改変行為によって使用可能となり、かつ、現実に使用したモジュールのみについて損害額を算定すべきであるという主張は採用することができない。
  • 原告が現実に行っているライセンスが第三者を介在させたサブライセンスの形態であるとしても、著作権法第114条第3項の損害の算定は、原告が直接被告とライセンス契約を行う場合を想定して行うことができると解されるから、被告の小売り価格ではなく卸価格で損害額を算定されるべきであるという主張は採用することができない。

5.まとめ

ダッソーシステムズのソフトウェアである「CATIA」を違法なクラックソフトを用いて改変し、すべてのモジュールを使用できる状態にした事例において、使用可能となったソフトウェア全体の使用許諾料相当額に基づき損害額認定された実例として参考になる事案です。

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