ソフトウェアの不正利用に関する代表的な裁判例である東京地裁平成13年5月16日判決(LEC事件・司法試験予備校事件)をご紹介します。
BSAによると上記判決は組織内不正コピーによる著作権侵害に関する日本初の判決であり、BSAが公表している資料においても訴訟による損害賠償が認められた事例としてたびたび言及されています(BSAについては「ソフトウェア不正利用の損害賠償対応業務」というページでご説明していますのでご参照ください)。
なお、上記判決の全文は、裁判所のウェブサイトに掲載されています。
このページの目次
1.当事者
- 原告(ソフトウェアメーカー)
アドビ・システムズ・インコーポレーテッド
マイクロソフト・コーポレーション
アップル・コンピュータ・インコーポレーテッド
- 被告(不正利用者)
司法試験予備校
2.事案の概要
被告が校舎内に設置された多数のコンピュータ内に原告らのソフトウェアを違法にインストールした上で、そのソフトウェアを使用して教材の作成などを行っていた事案です。
原告らはBSAの通報窓口を通じて違法インストールが行われているという情報を得て、訴訟提起前に証拠保全の申立てを行いました。そして、被告の校舎内で実施された証拠保全手続きの結果、校舎内のコンピュータにおいて545本のソフトウェアの違法インストールが行われている事実が確認されました。
その後、原告らと被告との間で和解交渉が行われましたが、賠償額について折り合いがつかなかったことから、原告らは、被告に対して、ソフトウェアの使用の差止と損害賠償を請求する訴訟を東京地方裁判所に提起しました。
また、被告は、訴訟提起後、違法にインストールされたソフトウェアをすべて削除して、ソフトウェアの正規品を購入しました。
3.当事者の主張
この訴訟では(1)差止請求の可否と(2)原告らの損害額が主要な争点となり、損害額の争点に関して、原告らと被告は、それぞれ以下のような主張をしました。
- 原告らの主張
- 被告は違法にインストールされたソフトウェアを業務で使用して年間153億円の利益を上げていることから、正規品小売価格相当額に5000万円を加えた金額が原告らの受けた損害額と推定すべきである。
- 許諾料相当額は正規品小売価格の2倍相当額を下らない。
- 被告の主張
被告は事後的にソフトウェアの正規品を購入しており、それにより過去の違法であった使用分も遡ってカバーされるため、賠償すべき損害はない。
4.裁判所の判断
東京地裁は、以下のとおり原告らと被告のいずれの主張も否定した上で、被告に対して、①正規品小売価格相当額(総額約7700万円)、②弁護士費用(総額約770万円)、③遅延損害金の支払いを命じました。
- ソフトウェアの違法インストールにより被告が得た利益額は、正規品小売価格で評価し尽くされており、これを超えると解するのは相当ではない。
- 許諾料相当額は正規品小売価格の2倍相当額を下らないという事実を認めることはできない。
- 原告らの受けた損害額は、被告がソフトウェアを違法にインストールした時点で既に確定しており、その後ソフトウェアの正規品を購入したことは損害賠償義務の存否や多寡に影響を及ぼすものではない。
なお、BSAや被告のリリースによると、東京地裁の判決後に控訴審(東京高裁)において、東京地裁判決を踏まえた東京高裁の和解勧告を原告らと被告の双方が受け入れて和解が成立したようです(具体的な和解条件は公表されていません)。
5.まとめ
BSAに対する通報を端緒として証拠保全、訴訟提起が行われ、正規品小売価格相当額に基づき損害額が認定された実例として参考になる事案です。
もっとも、正規品小売価格相当額に基づき損害額を認定した点に関しては、小売価格にはソフトウェアメーカーの利益だけではなく、卸売業者や小売業者の利益も含まれており、この点を指摘すれば、損害額は卸価格相当額に減額されたものと考えられると指摘する見解もあります。
私は、これまでBSA対応に関する案件に多く携わった経験があり、BSAへの対応に関するご相談をお受けしたり、代理人としてBSAとの交渉を行うことが可能です。ご相談をご希望される場合は、問い合わせフォームにてお気軽にお問い合わせください。